コロナ禍によって住まい探しのトレンドに変化が生じていることは、当コラムの過去の記事でも触れた通りです。
テレワーク普及による住まい探しトレンドの変化。アフターコロナの不動産仲介業を考える
緊急事態宣言の発令〜解除から約3ヶ月が経過し、さまざまなトレンド調査によって、この間の生活者の動向およびマインドの変化が明らかになってきました。
今回は、(株)リクルート住まいカンパニーが行った『住宅購入・建築検討者』調査(首都圏)から住宅の購入・建築を検討している人を対象に、検討する物件の種別、検討に当たって重視する条件などについて論考してみたいと思います。
目次
住まい探しのきっかけとコロナ禍
■新築/中古一戸建て検討層の約25%がコロナ禍がきっかけで住まい探しを開始
コロナ禍の拡大が住まい探しにどのような影響があったかを聞いたところ、最も多い回答は「影響は無い」が34%、次いで24%が「検討を中止した」、23%が「見学を中止した」となりました。ここでは、16%が回答した「住まい探しの後押しになった」、15%が回答した「住まい探しのきっかけとなった」についてまとめました。
Q.コロナ禍の住まい探しへの影響(複数回答)
・「住まい探しの後押しになった」
注文住宅:21%
新築マンション:19%
新築一戸建て:28%
中古マンション:18%
中古一戸建て:30%
・「住まい探し始めのきっかけとなった」
注文住宅:20%
新築マンション:17%
新築一戸建て:24%
中古マンション:18%
中古一戸建て:26%
それぞれの物件種目の回答割合を見てみると、戸建て関連が全体の平均よりも5ポイント以上高くなっていることがわかります。コロナ禍が、戸建て検討者の住まい探しに影響を与えたことがわかる結果と言えます。
住まい探しのきっかけとライフステージの変化
■戸建て検討のきっかけは、「家族が増えた」「仕事環境の変化」
では具体的に、戸建て検討層の住まい探しにどのようなニーズの変化が起こったのかを見ていきましょう。
Q.住まいの検討のきっかけは?(複数回答、上位3項目)
・注文住宅検討層
①自身/配偶者の転勤(19%)
②結婚(15%)
③第一子出生(12%)
・新築一戸建て検討層
①結婚(20%)
②第一子出生(20%)
③自身/配偶者の転勤(12%)
③在宅勤務(12%)
・中古一戸建て検討層
①自身/配偶者の転勤(18%)
②第二子以降の出生(14%)
③第一子出生(13%)
転勤や在宅勤務などの仕事上の変化、結婚や出産などのライフステージにおける変化が戸建ての上位では目立つ結果となっています。
■マンション検討層との比較
マンションも近しい傾向にありますが、新築マンション検討層の25%が「(きっかけは)特にない」と回答して最多となっているほか、中古マンション検討層の回答で「賃貸物件の更新・値上げ」が15%で2位になるなど、一戸建て検討層の方が仕事やプライベートなどの生活環境の変化が住み替えの検討に直結していることが分かる結果となっています。
テレワークの普及が住まい探しに与えた影響
■戸建て検討層の約3割「仕事専用スペースがほしくなった」
Q.コロナ拡大による住宅に求める条件の変化(複数回答、上位3項目)
・注文住宅検討層
①仕事専用スペースが欲しくなった(34%)
②宅配ボックス・置配ボックスを設置したくなった(30%)
③遮音性に優れた住宅に住みたくなった(28%)
・新築一戸建て検討層
①宅配ボックス・置配ボックスを設置したくなった(35%)
②通風に優れた住宅に住みたくなった(35%)
③部屋数が欲しくなった(34%)
・中古一戸建て検討層
①宅配ボックス・置配ボックスを設置したくなった(36%)
②広いリビングが欲しくなった(33%)
③通風に優れた住宅に住みたくなった(32%)
遮音性に優れた住宅に住みたくなった(32%)
日当たりの良い住宅が欲しくなった(32%)
注文住宅では、在宅でのテレワーク関連のニーズの顕在化が顕著となる一方、新築・中古一戸建てはいずれも、外出自粛による自宅での時間が増加したことで、より快適な自宅時間を過ごすためのニーズが顕在化していきていることが分かります。
ウィズコロナの住まい探しトレンド
ここまで、一戸建てのニーズにフォーカスして論考してきましたが、ここからは住まい探し全般のトレンドについて見ていきたいと思います。
一戸建て派vsマンション派
Q.一戸建て・集合住宅(マンション)検討意向(単数回答)
2020/05調査結果 一戸建て(63%):集合住宅(22%)
2019/12調査結果 一戸建て(56%):集合住宅(32%)
前回調査に比べて、一戸建て派が7ポイント増加、集合住宅派が10ポイント減少となりました。元々一戸建て派の方が多かったものの、その差が更に大きくなっています。
今回の調査では、年代別の動向も紹介されており、20代〜30代の一戸建て派が70%台、マンション派が10%台となっている一方、40代〜60代では一戸建て派が50%台、マンション派が30%前後となっており、年代によって違いがみられます。
広さvs駅距離
次に、広さと・駅距離の重視意向についてです。同じ金額であれば、広い物件と駅距離が近い物件のどちらを選ぶか?というものになります。
Q.広さ・駅距離 重視意向(単数回答)
2020/05調査結果 広さ重視(52%):駅距離重視(30%)
2019/12調査結果 広さ重視(42%):駅距離重視(40%)
前回調査に比べて、広さ重視が10ポイント増加、駅距離重視が10ポイント減少となり、広さ重視派が大きく伸長する結果となりました。物件種目別でみると特に注文住宅の伸び幅が大きく12ポイント増加、全体で61%となり、新築・中古マンションで「駅距離重視」と回答した人は11〜12ポイント減少となっています。
この調査結果からも「イエナカ」の時間を重視した住まい探しニーズの高まりを感じることができると言えそうです。
住宅の買い時感
■買い時感は前回調査(2019/12)から大きな変化なし
Q.住宅の買いどき感(単数回答)
2020/05調査結果 買い時だと思う(49%):買い時だと思わない(16%)
2019/12調査結果 買い時だと思う(52%):買い時だと思わない(12%)
現状のマーケットについて、買い時だと思う人はいずれも約半数となり大きな差は出ませんでした。以下に、その理由のうち差分の大きいものをまとめました。
・増加幅の大きい項目
今は価格・費用がお手頃(前回調査31%→今回調査39%)
今は、いい物件が出ていそう(前回調査18%→今回調査24%)
・減少幅の大きい項目
今は、消費税が有利(前回調査19%→今回調査7%)
今は、住宅ローン金利が安い(前回調査43%→今回調査33%)
物件価格の値下がりと、成約価格の下落によって流通物件の市場への供給量の増加を期待する声が伸長している一方、コロナ禍による雇用および収入への不安による懸念が垣間見える結果となりました。
変わりゆく住まい探しニーズを取り込むためのポイント
今回の調査結果から、コロナ禍によって住まい探しのトレンドに「リビングなど家族で過ごす空間とつながりを持ちつつも、仕事に集中できるスペース求める」動きが出ていることが分かりました。
とはいえ、活用できるスペースも有限ですので、その中でいかにして有効活用できるかがエンドユーザーへの提案の鍵になると言えるでしょう。
例えば、三菱地所と三菱地所レジデンスが企画した“部屋の中の小屋”「箱の間」は、居室内に国産材を活用した”建築と家具の間”の商品を展開し、テレワーク用の書斎として、子ども部屋として、ウォークインクローゼットとして、間取りに家族それぞれのライフスタイルに合った空間を付加することを可能にしています。こうした空間の自在な活用は、不動産業界全体としての動きとして今後広がっていくかもしれません。
※『住宅購入・建築検討者』調査(首都圏)調査概要
・調査目的
コロナ禍を受けた住宅の購入・建築、リフォーム検討意向者の意識と行動を把握する
・調査対象
首都圏(東京都/千葉県/埼玉県/神奈川県)在住の20-69歳男女で、 4月7日以降に住宅の購入・建築、リフォームについて「具体的に物件を検索した。もしくは建築・リフォーム会社の情報収集をした、している」「資料請求をした」「物件、モデルルームや住宅展示場、モデルハウス、ショールームを見学した」「不動産会社、建築、リフォーム会社を訪問した」「賃貸・購入する物件や、建築・リフォームの依頼先と契約した」のいずれかの行動をしており、検討に関与している者。
・調査方法
オンライン上でのアンケート調査
・調査時期
2020年5月17日(日) ~ 5月21日(木)
・有効回答数
1,082 (本リリース集計対象:569)
<執筆者プロフィール>
T.S.MarketingLAB
不動産ポータルサイト運営企業でマーケティングを担当していた経験を活かし、不動産市況・業界動向・エンドユーザーのトレンドなどについて、各種メディアでライターとして情報発信を行うほか、不動産関連ビジネスのコンサル・業務課題ソリューションなども展開している。