コラム 不動産 業界動向

住替えにおける防災意識の高まりと接客のポイント

投稿日:2020-09-12 更新日:

夏から秋にかけて太平洋高気圧の勢力が弱まってくると、日本列島への台風の上陸数が増加する季節が近づいてきます。昨年・一昨年と大型の台風が列島を縦断し、各地に大きな被害を与えたことは記憶に新しいところです。

不動産流通領域においては、2020年7月17日の国土交通省定例会見で宅地建物取引業者に対し、不動産取引時に水害ハザードマップを使って対象物件のリスクを説明することを8月28日から義務化することを発表したのはご存じの通りです。売買と賃貸ともに対象とし、業界全体での取り組みを加速させています。

このような不動産業界を取り巻く環境の変化を受け、今回の記事では、アットホーム(株)が行った「景況感調査」や「中古住宅トレンド調査」などから、エンドユーザーが住み替えにおいて自然災害をどのように意識しているかに加えて、接客時のポイントなどについて考察してみたいと思います。

住家被害数から見る激甚化が進む近年の台風被害

歴代台風の住家被害数からみる台風災害の激甚化

近年、台風による自然災害の激甚化が進んでいます。総務省消防庁の災害情報によると、歴代の台風による住家被害の上位は以下のようになりました。

<台風による住家被害数(戸数)>

①1959年台風15号:833,965

②1961年台風18号:499,444

③1951年台風15号:221,118

④1954年台風15号:207,542

⑤1991年台風19号:170,447

⑥2018年台風21号:97,910

⑦1953年台風13号:86,398

⑧1955年台風22号:85,554

⑨2019年台風15号:76,874

⑩1959年台風7号:76,199

ここでいう住家被害とは、住戸の全壊・半壊・一部損壊の合算となります。上位は1950〜60年代の台風が占めていますが、その理由として、当時は今日よりも治水・治山・河岸防備などの災害対策が十分に進んでいなかったことが挙げられるほか、耐風・耐水の部分で今日よりも住宅性能が劣っていたことなどが挙げられます。

2018年・19年の台風が上位に入った意味とは?

これらを踏まえると近年の2つの台風、2018年の21号19年の15号がトップ10に含まれていることは特筆すべきことと言えます。台風に限らず、ゲリラ豪雨や爆弾低気圧などのこれまでにあまり見られなかった気象の変化がメディアで取り上げられるようになってから久しいですが、そういった変化が生活者のマインドにも影響を及ぼしています。

不動産会社に聞いた!「災害リスク」関連の問合せ頻度と内容

「災害リスクに関する質問が増えた」44%

アットホーム(株)が行っている「地場の不動産仲介業における景況感調査(2018 年7~9 月度)によれば、「災害リスク」に関して入居・購入希望者から質問される頻度についてアンケートした結果、「増えた」「やや増えた」と回答した割合が44%となりました。

Q.入居・購入希望者からの「災害リスク」に関する質問頻度(n=1,219・単一回答)

出典:アットホーム(株)「地場の不動産仲介業における景況感調査(2018年7~9月期)」

当調査の対象期間である2018年の7月~9月と言えば、西日本の豪雨や北海道の地震、近畿圏に襲来した台風21 号など、自然災害が相次いで発生した時期で、当アンケート結果からは、その影響を色濃く反映した結果がみてとれます。

質問内容は「洪水・浸水」が「地震・津波」を上回って最多に

Q.「災害リスク」に関して以前より増えたと感じる質問内容(複数回答)

出典:アットホーム(株)「地場の不動産仲介業における景況感調査(2018年7~9月期)」

また同調査では、「災害リスク」に関して以前よりも増えたと感じられる質問についても聞いており、「洪水・浸水」が「地震・津波」を上回って1位となったことからもエンドユーザーのマインドへの影響が分かります。

翌2019年には暴風による被害が大きかった台風15号、暴風・大雨の影響で東日本全体に大きな被害が出た台風19号などもあり、現状は当時よりもさらに自然災害に対する意識が高まっていると考えられます。

消費者に聞いた!「住まいの防災意識に関する調査」

では、そういった自然災害の激甚化を受けて、エンドユーザーが住まいの防災意識についてどのように考えているのかをアットホーム(株)が2020年1月に実施した調査から考えてみたいと思います。

自然災害の激甚化によって「防災意識が高まった」70%

■2018~2019年は災害が多い年でしたが、防災意識は高まりましたか?(択一)

出典:アットホーム(株)消費者と不動産会社に聞いた!住まいの防災意識に関する調査

自然災害が多かった2018年~19年で「防災意識が高まった」と回答した人が70%となりました。とりわけ、女性は76.9%で男性の63%に比べて13.9ポイント高いという結果となっています。

■防災意識が高まった結果、どんな行動に移しましたか?(「防災意識が高まった」と回答した291名が対象/複数回答)

出典:アットホーム(株)消費者と不動産会社に聞いた!住まいの防災意識に関する調査

防災意識が高まったと回答した人にどんな災害対策を行ったのか聞いたところ、「水や食料品を備蓄した」と「ハザードマップなど災害に関する情報を調べた」がそれぞれ半数を超えました。

「ハザードマップを見たことがある」75.5%

■「ハザードマップ」を知っていますか?(択一)

■「ハザードマップ」を見たことがありますか?(「ハザードマップ」を知っていると回答した343名が対象/択一)

出典:アットホーム(株)消費者と不動産会社に聞いた!住まいの防災意識に関する調査

「ハザードマップを知っている」と回答した人は8割以上で、年代別で見ると40代が最多という結果になりました。一方、「ハザードマップを見たことがある」と回答した人は75.5%で、年代別で見ると50代が85.7%とトップでした。20代はハザードマップの認知度は76.0%と低くないものの、実際に見たことがある人はそのうちの63.3%にとどまっています。

住まい探しで「防災を意識する」75.5%

■次の住まいを探す際は、防災を意識して探そうと思いますか?(択一)

出典:アットホーム(株)消費者と不動産会社に聞いた!住まいの防災意識に関する調査

■次の住まいを探す際に、こだわりたい条件を教えてください。(「次の住まいを探す際に、防災を意識して探す」と回答した314名/複数回答)

出典:アットホーム(株)消費者と不動産会社に聞いた!住まいの防災意識に関する調査

次の住まいを探す際に防災を意識するという人は75.5%でした。防災を意識して探す際にこだわりたい条件では、「築年数10年以内」「鉄筋系」「3階以上」に回答が集まっています。新耐震基準という観点でみると、全体の98.4%が築38年以内(新耐震基準が施工された1981年6月以降の物件)にこだわりたいと回答していることもポイントです。

設備面では「免震構造」(47.1%)、「雨戸・シャッター」(22.3%)、「自動火災報知設備」(22%)が上位を占めているほか、建物構造では「鉄筋系」が61.1%、階建ても3階以上(42%)が最多で、2階(35.7%)が次点となるなど、地震・台風・洪水への意識が高いことが垣間見える結果となっており、内見時のチェックポイントと言えるでしょう。

台風被害の激甚化を住まい探しニーズに取り込むためには?

ここまで取り上げた調査結果を以下にまとめます。

■台風災害の激甚化が進んでおり、特に2018年・19年と大きな被害をもたらした

■不動産会社の約半数が災害リスクに関する質問が増加し、「洪水・浸水」が「地震・津波」を上回って最多となった。

■エンドユーザーにおいても、防災意識の高まりがみられる。ハザードマップへの関心が高いこと、住宅設備における耐震・耐風・耐水性へのこだわりがみえる

エンドユーザーに災害リスクを理解してもらうためには?

ハザードマップへの関心が高まってはいるものの、重説に盛り込まれることが義務化されたことから、ハザードマップの説明において他社と差別化することは難しくなりました。

一方、エンドユーザーにおいては、災害リスクへの意識の高まりが垣間見られる一方で、「多少のリスクがあってもこの物件に住みたい」という方、「できる限り災害リスクは抑えたい」という方、それぞれにおける災害リスクの考え方は千差万別と言えるでしょう。

その場合ポイントとなるのは、最終的な意思決定を行う買主に対してできるだけ多くの情報を与え、判断する材料を幅広く伝えていくことが重要になります。

また、特に災害リスクに対する懸念を強く持っている顧客に対しては、災害リスクへの情報に加えて対処法についてもさまざまな選択肢を提示することで安心感を与えられることでしょう。

例えば、火災保険の保証対象として、火災以外も適用される可能性があることを知らないエンドユーザーも多いようです。また、保険会社によって保証範囲や内容が異なることなども併せて説明することで安心感の醸成につなげることができるでしょう。他にもリフォームと併せて耐震補強工事を提案するなども一案となります。

災害リスクについて、発災前の準備・発災後に向けた準備などさまざまなアプローチからエンドユーザーの不安に沿った対応を図ることが重要になります。

※調査概要

■地場の不動産仲介業における景況感調査(2018年7~9 月期)

1.調査の目的

居住用不動産流通市場の景況感(仲介店の営業実感)を四半期ごとに調査・分析し、景気動向の指標として公表することを目的とし、2014 年1~3 月期に開始、今回が19 回目となる。

2.調査地域

宮城県、首都圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)、静岡県、愛知県、近畿圏(京都府、大阪府、兵庫県)、広島県、福岡県の12 都府県。なお分析上では東京都を東京23 区と都下に分け、13 エリアとしている。なお、今回は北海道胆振東部地震の直後であったため、北海道は調査対象外とした。

3.調査対象、調査方法

上記調査地域のアットホーム全国不動産情報ネットワーク加盟店のうち、都道府県知事免許を持ち5 年を超えて仲介業に携わっている不動産店の経営者層を対象にしたインターネット調査。調査対象は23,698 店。

4.調査期間

2018 年9 月13 日~9 月30 日

■消費者と不動産会社に聞いた!住まいの防災意識に関する調査概要

1.調査対象

現在、賃貸物件に住んでいて、住まい探しに関わったと回答した全国の20~50代の男女 計416人

2.調査方法

インターネットによるアンケート調査

3.調査期間

2020年1月10日(金)~13日(月・祝)

4.調査回答者(エリア内訳)

北海道地方32人、東北地方19人、関東地方160人、中部地方58人、近畿地方86人、中国・四国地方29人、九州地方32人

※小数第2位を四捨五入しているため、合計100%にならない場合があります。

<執筆者プロフィール>

T.S.MarketingLAB

不動産ポータルサイト運営企業でマーケティングを担当していた経験を活かし、不動産市況・業界動向・エンドユーザーのトレンドなどについて、各種メディアでライターとして情報発信を行うほか、不動産関連ビジネスのコンサル・業務課題ソリューションなども展開している。

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