コラム 後見 民事法務

認知症患者の贈与は有効or無効?

投稿日:2020-09-25 更新日:

「認知症と診断された」「まだ診断されたわけではないけど、最近少し判断能力が鈍ってきたように思える」等のきっかけがあり、この時点で初めて生前準備を思い立つケースが少なからずあります。

この時点の資産状況によっては、準備の一環として節税目的での生前贈与を検討したいところですが、これは相続開始後になって問題が起きるリスクが大きい行為だと言えるでしょう。生前の健康状態を知る相続人の間で「本当に本人の意思で行われた贈与なのか」という疑惑が噴出し、ともすると贈与の有効性を争う裁判に発展してしまいかねないからです。

 

ここに目を通す人の中には、すでに生前贈与の有効性に疑問を抱いている相続人もいるのではないでしょうか。

下記では、認知症患者の贈与の有効性について、民法解釈や判例を通じて解説します。

 

発症時点ではまだ自力で贈与契約できる

民法の解釈上単に”認知症を発症したというだけでは、その後の贈与が無効になることはありません。

財産管理や法律上有効な契約が自力で出来ない人(=制限行為能力者)かどうかは、医師の判断ではなく、家庭裁判所のジャッジで決まるからです。

 

【参考】制限行為能力者の4類型

未成年者(民法第4条):20歳未満の人※

被後見人(民法第7条):常に判断能力を欠いてい人

被保佐人(民法第11条):判断能力が著しく不十分な人

被補助人(民法第15条1項本文):判断能力が不十分な人

2022年4月1日以降は18歳未満の人

→被後見人以下の制限行為能力者は、家庭裁判所の審判(家族の申立てと診断書を基に行われる判断)を受けた人を指します。

 

以上の解説の通り、家庭裁判所が「申立てのあった人は制限行為能力者だ」と判断する材料のひとつとして、医師の診断書があります。つまり、医療機関に診てもらうのが先で、家庭裁判所のジャッジが後であり、両者には時間差があるのです。

 

発症初期~後見開始の間の贈与が無効主張されやすい

加えて言えば、周知の通り、認知症はある日を境に急に発症するものではありません。初期段階では「物忘れ」や「イライラしやすい」といった誰でもあり得る症状ですから、後から医療機関で認知症を発症していたと分かることはあっても、ある程度症状が進まなければ診断には至らないものです。

 

認知症初期なら贈与は無効にならない可能性あり

 

ここで、周囲の人の視点で考えてみましょう。

発症初期から後見開始までの間は、法的に「財産管理や法律上有効な契約が自力で出来る状態だったか」を証明されることはありません。それは本人のみぞ知ることですが、同時に生前準備としての贈与を検討し始めるのもこの時期です。

相続開始後から考えてみると「あの時、本当に贈与契約を自分で決断できる状態だったのか」という疑念が生まれるのは、当然の成り行きと言えるでしょう。こうして贈与は無効だと主張されてしまうのです。

 

症状が中程度以上に進むと「贈与は無効」とされやすい

症状が中程度以上に進むと「贈与は無効」とされやすい

実際に贈与の無効主張が行われるケースでは、認知症の症状が中程度~高度だったという医療記録が残っている時期以降の契約に関して、原告の主張が認められる傾向にあるようです。

 

【判例】松山地方裁判所平成18年2月9日判決

認知症と診断された高齢者が、相続人が4人いる状況で相続権のない孫に「全財産を贈与する」という内容の書面を作成。原告である相続人らが贈与の無効を主張したケース

→「自分の病室が分からなくなる」「尿失禁があった」等の実際の症状と、贈与2年前の2月と8月に行われた知能検査の結果をもとに、贈与契約時は高度の認知症だったと認定。さらに、書面に第三者のサポートを得て作成された形跡を認め、贈与は無効と判断。

 

上記は10年ほど前の典型的な判例ですが、相続人による贈与の無効主張訴訟は増える一方です。

裁判所の判断全体を通して、認知症の中でも「アルツハイマー型」(患者の約70%を占める最も多い症例)と呼ばれるものは、発症から比較的早い段階で「意思能力がない」(自分で贈与契約できる状態にない)と認められる傾向も見て取れます。

 

成年後見人でも贈与できる?

成年後見人に贈与契約を任せることは出来ない

では、いっそのことある程度認知症が進むのを待って、成年後見人の判断で贈与してもらうのほうがいいのでしょうか。確かに、節税策として贈与するなら、若く健康な後見人に判断を任せてしまうのが良い気がします。

 

結論として、成年後見人が本人に代わって贈与契約を結ぶのはほぼ不可能です。併せて、本人から後見人へと財産を譲ることも出来ません。

後見人には「善管注意義務」(自分の財産と同じように被後見人の財産を管理する義務)があり、目的なく本人の財産を減らしたり、自分のために本人から財産を譲り受けることは出来ないからです。

 

生前贈与は「異変を感じる前」に済ませる

終活は高齢期に入ったらすぐ始めるのがベスト

ここまでの解説を踏まえると、生前贈与の必要性がある場合、出来るだけ体調に異変を感じる前に手続きしておくべきです。

さらにポイントを述べると、贈与の際は必ず日付入りの契約書を作成しましょう。いつ贈与を行ったのかが分かる書類から「認知症発症前の意思能力がある状態で手続きした」と分かり、死後のトラブルを回避できます。

 

おわりに

法律上、贈与の契約が無効になるのは「家庭裁判所が判断能力の低下を認めた時点以降」です。しかし実際には、本人が能力に異変を感じた段階から、その後の贈与が将来のトラブルの種になる恐れがあります。

生前贈与を行う必要性がある場合は、体調に異変を感じる前から適切な手順で済ませておくと安心です。

 

こちらの記事も参考になります

元気なうちに済ませたい「認知症対策」とは

成年後見制度は相続準備にならない?認知症に備えられる手続き

 

免責事項

当サイトは、細心の注意を払い編集しておりますが、情報の正確性、有用性、確実性について、一切の保証を与えるものではありません。当サイトの掲載情報を独自の判断により利用されたことによって、万一、ご利用者の方に何らかの損害が生じたとしても、当事務所は一切の責任を負いません。当サイトの内容は、予告なしに変更されることがあります。

-コラム, 後見, 民事法務

Copyright© 木村司法書士事務所 , 2020 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.