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事業規模を広げる際に知っておきたい「従業員雇い入れの基礎ルール」

投稿日:2020-10-26 更新日:

個人事業主や一人社長からのステップアップでは、人手を雇い入れる際のルールが不安要素になります。

具体的には「何となく契約書や社会保険の加入義務があることは知っているが、詳しい要件は知らない」「保険料負担の余裕があまりない」「給与計算業務まで回せるか分からない」といった悩みが生じるのではないでしょうか。

ここでは、使用者の義務について基本的なことを紹介した上で、給与計算業務アウトソーシングの要否についても簡単に触れます。

 

雇い入れ時の使用者の義務とは

雇い入れ時の使用者の義務として、労働関連法では「雇用契約書や就業規則の作成」「労働社会保険への加入」が挙げられています。これらに障害者雇用義務を加えて、まずは雇用する人数ごとに付与される義務の内容を一覧化します。

 

使用者の義務\雇用人数 ~4人 5人~10人 10人~ 45.5人~
雇用契約書の交付
就業規則の作成
雇用保険
健康保険 〇※ 〇※ 〇※ 〇※
厚生年金 〇※ 〇※ 〇※ 〇※
障害者雇用義務

※法人事業所と一定の業種を行う個人事業所のみ

 

雇用契約の結び方

雇用契約の結び方

個人事業主からのステップアップなどの場合、すでに事業内容や雇用条件について理解している知人や友人を雇い入れるケースが多いと考えられます。このような場合でも、労働条件を明示した「雇用契約書」を交付しなければなりません(労働基準法第15条・労働契約法第4条第2項)。

雇用契約書に記載しなければならない事項としては、以下が挙げられます。

 

  • 雇用契約はいつまで継続するのか
  • 契約更新の有無や更新判断の方法(※雇用期間に定めがある場合)
  • 仕事をする場所と仕事内容
  • 労働時間と休憩・休日
  • 賃金の額・計算方法・支払方法
  • 賃金の締切と支払い時期
  • 退職ルールと解雇事由

 

労働社会保険はどのタイミングから加入するのか

労働社会保険の加入義務

使用者が加入しなければならない労働社会保険には、①雇用保険・②健康保険・③厚生年金の3つがあります。

①は事業規模や雇い入れの状況(人数や雇用形態)に関わらず加入の必要があり、②・③は常時5人以上であれば加入しなければなりません。詳しい加入義務の要件は以下の通りです。

 

【雇用保険の加入義務】

…「1週間の所定労働時間が20時間以上に及び、かつ31日以上の雇用見込みがある」従業員が1人でもいれば、加入が強制されます。

【健康保険の加入義務】

…法人の事業所か、一定の業種であり常時5人以上を雇用する個人事業所で加入が強制されます。パートやアルバイトの従業員に関しては「1日or1週間の労働時間」と「1か月の所定労働日数」が正社員の4分の3以上に及べば加入対象です。

【厚生年金の加入義務】

…健康保険と同じ要件で加入が強制されます。

 

雇用保険に関しては、退職・休職の際に「実は未加入だった」と従業員が気づいて問題になるケースが多発しています。2020年初旬からの新型コロナウイルス流行下では、臨時で政府が行う保障制度(雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金など)利用しようとする際に未加入が判明するケースが見られます。

労働トラブルにならないためにも、こうした労働社会保険の加入義務について使用者が理解しておくことは重要です。

 

【個人事業所】厚生年金・健康保険の適用事業所とは

上記で「一定の業種」と説明したもの、つまり個人事業所で社会保険の強制加入対象となるのは、以下の16業種です(健康保険法第3条・厚生年金保険法第6条の1)。

 

【厚生年金・健康保険の適用業種】

  • 製造業
  • 鉱業
  • 電気ガス業
  • 運送業
  • 貨物積卸し業
  • 物品販売業
  • 金融保険業
  • 保管賃貸業、
  • 媒体斡旋業
  • 集金案内広告業
  • 清掃業
  • 土木建築業
  • 教育研究調査業
  • 医療事業
  • 通信報道業
  • 社会福祉事業

 

就業規則の作り方

就業規則の作り方

常態として10人以上を雇う事業場では、賃金や労働時間・服務規程などを定めた「就業規則」を作成しなければなりません(労働基準法第89条)。

就業規則に記載すべき必要事項も法令で定められており(下記参照)、掲示・作業場への備え付け・書面交付などの方法をとって従業員がいつでも確認できるようにする必要があります(労働基準法第106条)。

 

【絶対的必要記載事項】※必ず記載するもの

  • 始業および就業の時刻
  • 休憩時間・休日・休暇
  • 終業時転換に関する事項(交代制の場合)
  • 賃金の額・計算方法・支払方法
  • 賃金の締切と支払い時期
  • 退職ルールと解雇事由

 

【相対的必要記載事項】※事業場の状況に応じて記載するもの

  • 退職手当に関する事項
  • 賞与や最低賃金に関する事項
  • 食費・作業用品などの負担に関する事項
  • 安全衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰や制裁に関する事項
  • その他、全労働者に適用される事項

 

就業規則はネット上でひな形配布も見られますが、取り急ぎ作っておきたいときは厚生労働省の『モデル就業規則』を参考にするとよいでしょう。

 

パワハラ防止の義務化に注意

就業規則の作成では、2019年の法案成立で始まった「パワハラ対策の義務化」(改正労働施策総合推進法)に注意しましょう。2020年10月現在は大企業のみ義務化されている状況ですが、2022年4月からは下記要件に当てはまる中小事業主も義務化の対象になります。

 

【参考】パワハラ対策が義務付けられる「中小事業主」とは

小売業:資本金5,000万円以下・従業員数50人以下

サービス業:資本金5,000万円以下・従業員数100人以下

卸売業:資本金1億円以下・従業員数100人以下

その他の業種:資本金3億円円以下・従業員数300人以下

 

雇い入れ時のルールに関して中小経営者が今後負うルールとしては、以下の通り定められています(令和2年厚生労働省告示第5号)。

 

事業主の方針の明確化

就業規則上で「パワーハラスメントの内容」「パワハラを行ってはならない旨の方針」を明確化し、懲罰規定を設ける必要があります。

 

対応フローや責任者の規定

同じく就業規則上で、パワハラ対応の責任者(担当部門や担当者)を指定し、対応時のフローも具体化しておかなければなりません。

 

相談窓口の設置

社内・社外のどちらでも構いませんが、当事者のプライバシーを守りながら相談できる「パワハラ相談窓口」を整備しておく必要があります。加えて、相談内容は責任者にエスカレーションするように指示し、実質的に問題対応できるようにしなければなりません。

 

上記の他にも「当事者(パワハラ調査への協力者を含む)を退職や配置換えするなどの不利益扱いをしてはならない」と規定されています。

以上を受け、就業規則に設ける規定を検討しなければなりません。

 

参考:『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました︕』(厚生労働省)

 

給与計算はアウトソーシングすべき?

給与計算はアウトソーシングすべき?

これまで紹介した雇い入れ時のルールに関連して、給与計算業務の負担の問題があります。業務の担当者は、就業規則を参照しながら賃金を計算するだけでなく、最新の法令に基づく労働社会保険の控除や、年末調整の際の業務(源泉徴収票と賃金台帳作成)まで担わなくてはなりません。

知識を持ち効率化も図れる担当者がいない場合、あるいはそのような人材がコア業務に従事している場合は、給与計算業務が会社全体のボトルネックになりかねません。

そこで考えられるのが「業務の外注化」ですが、実のところ、コスト面で問題があります。

 

外注化は高くつく場合が多い

一般的な給与計算業務の外注費用は、社員1人あたり1万円~1万5千円です。かつ、社員数10名~100名の最低発注単位があり、小規模事業には向きません。顧問税理士に依頼すると格安で任せられる場合もありますが、給与計算は本来税理士の仕事ではないため、従業員数10名以下など零細な単位でしか任せられないのが通常です。

以上の点から、事業規模が小さい間は社内でノウハウを構築して、事業拡大の意欲があれば外注化を検討するのが最適解だと考えられます。

 

学びの過程で給与計算の実務スキルを身に着けられる資格等としては、東京商工会議所が主催する「ビジネス実務法務検定試験」の3級・2級や、実務能力開発支援協会が行う「給与計算実務能力検定試験」が挙げられます。経営者や人事・総務に携わる人は、積極的に受験を検討してみてもよいでしょう。

 

おわりに

従業員との間で合意形成できているかどうかに関わらず、ここで紹介した「雇用契約書と社会保険の作成義務」「労働社会保険の加入義務」は強制的なものとして存在します。企業法務の最初のステップとして、使用者の基本的な義務は必ず押さえておきましょう。

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