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デット・エクイティ・スワップ

投稿日:2014-12-01 更新日:

こんにちは。司法書士の木村安一です。

今日は、「デット・エクイティ・スワップ(通称DES)」について解説したいと思います。なぜ、急にデット・エクイティ・スワップかというと、先日DESのご相談をいただいたからです。

DESは事業承継でも登場するスキームです。会計をご存じの方や会社の経営に携わっている方はけっこうおもしろいと思います。

【デット・エクイティ・スワップとは(Wikipedia)】
まずは、Wikipediaの解説を見てみましょう。「デットエクイティスワップ(英: Debt Equity Swap)は財務改善の手法の一つで、負債と資本との交換である。貸し手の立場からは、債権を元手にした出資を意味する。日本語で「債務の株式化」と表現されることや、DESと略して表されることもある。」とあります。難しい書き方ですね。

【具体例】
具体例で考えてみましょう。AさんがB会社に3,000万円を貸し付けていたとします。しかし、B会社には返すお金がありません。そこで、AさんがB会社に対して持っている金銭債権(B会社に3,000万円を返せと請求する権利)をB会社に譲渡してしまいます。そのかわり、B会社はAさんに3,000万円分のB社株式を発行してAさんに渡します。これがDESです。

するとどうなるか。まずは、B会社の立場で考えてみます。B会社は「Aさんに3,000万円支払う義務」を負っていました。その支払う相手がAさんからB会社(自分)に変わりました。B会社は今、「自分に3,000万円を払う義務」と「自分に3,000万円払ってもらう権利」を持っています。意味ないですね。意味がないので、権利も義務も両方消えます。現金は1円も動いていないのに、DESによって3,000万円支払う義務がなくなりました。その代わり、3,000万円分の株式を発行したので、資本金が増えます。借金(他人資本)が減って資本金(自己資本)が増えます。会社の財産に占める借金の割合が減りました。一般的に、会社財産に占める借金の割合が少ない会社は銀行や投資家などから高評価を受けます。

次はAさんの立場で考えてみましょう。AさんはB会社に対して3,000万円の金銭債権(お金を払えと請求する権利)を持っていました。その権利が、DESによって、B社株式に変わりました。おおざっぱに言うと、株式というのは、会社を支配する権利がバラバラになったようなものです。「お金を払え」という権利をもっていたAさんは、B会社のオーナー(のうちの1人)に変わりました。

【法律上の手続】
DESというのは、「お金を払え」という権利(債権)を取得する代わりに株式を発行する手続です。債権の現物出資ですね。それなので、法的な手続は通常の現物出資とほとんど同じになります。具体的には
・定款変更(発行可能株式総数の変更)
・会社登記変更(発行可能株式総数の変更、資本金増加、発行済株式総数増加)
あたりが必要になります。
くどいですが、登記費用等の手続に必要な費用以外、現金は動きません。

【会計処理】
会社の経理上はどういう処理になるでしょうか。

B会社は3,000万円の貸付金(資産)を取得します。
同時に、3,000万円分の株式を発行します。
[仕訳①]貸付金 3,000万円 / 資本金 3,000万円

B会社が取得した貸付金は、払う人ともらう人が同じなので消えます(混同)
[仕訳②]借入金 3,000万円 / 貸付金 3,000万円

返済が必要な借金が減って、返済が不要な元手(資本金)が増えたので、貸借対照表の見栄えが良くなります。自己資本比率が増加して、財務体質改善されました。

【税務上の問題】
税務上気を付けなければいけないことがあります。
DESをする会社は債務超過状態等、返済能力に問題がある場合がほとんどです。
つまり、DES前のAさんはBさんから3000万円を返してもらえない可能性が高かったということです。そういうわけで、通常、Aさんの貸付金の時価(回収可能額)は額面よりも低くなります。3,000万円貸したのに、1,000万円しか払ってもらえなそうだ、ということです。すると、さっきの仕訳は以下のようになります。

貸付金 1,000万円 / 資本金  1,000万円
借入金 3,000万円 / 貸付金  1,000万円
債務免除益 2,000万円

B会社は3,000万円返す義務があったのに、DESで取得した自分に対する貸付金は1,000万円の価値しかありません。差額の2,000万円は、支払を免除してもらったことになります。免除してもらったということは、B会社にとてはラッキーなことです。免除額2,000万円はもうけ(益金)として、法人税の課税対象になります。(ただし、税務上の特例の要件に該当すれば、債務免除益は昔の繰越損失と相殺できる場合もあります)

【実務上問題となる点】
最後に実務上問題となる点をあげます。

①会計帳簿を法務局に提出するのできちんと記帳されている会計帳簿が必要
→会計帳簿の記載内容によっては登記で法務局にはじかれることがあります。
(会計帳簿上の債権者・金額・債権の発生原因は正しく記載されている必要がある)

②持株割合が変化するので経営権に注意する
→株式を発行するということは、会社の支配権に変化が起こるということです。今までの経営権が維持できるか確認する必要があります。

③債権の時価評価が必要
→実務的には、通常公認会計士が評価します。会社の評価は時間がかかります。

④社長さんが精神的にショックを受けることが多い
→社長さんは自社に対する債権に価値がないことと自社に返済能力がないことの現実に直面します。このショックは小さくありません。社長さんに納得してもらうのに時間がかかることがあります。メンタルのケアが必要なこともあります。

【最後に】
現物出資の手続一つとっても、法務、税務、会計処理など、各方面に気を配らないと大変なことになります。専門家同士の連携は重要ですね。

とんでもなく長い文章になってしまいました。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。
疑問点等あればお気軽にご連絡ください。

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