亡くなった人が連帯保証人だった場合、その保証人としての立場は他の遺産にまぎれて一緒に承継されます。ある日突然「主債務者が返済できなくなったので代わりに支払ってほしい」と催促されても、他の相続財産を得ている以上、返済を拒むことは出来ません。
連帯保証人を相続してしまうとどうなるのか、相続しないようにするにはどうすればいいのか、それぞれ分かりやすく解説します。
目次
そもそも連帯保証人とは
連帯保証人とは「ある金銭貸借契約について、主債務者※の代わりに返済するよう求められても、それを拒めない地位」を指します。
※ここで言う主債務者とは、自分の名義でお金を借りて返済する義務を負う人のことです。
連帯保証人が債権者からの返済要求を拒めない理由は、保証人に本来認められる”抗弁権”がない点にあります。
【保証人の”抗弁権”】とは
●催告の抗弁権(民法第452条)
…支払督促する際に、保証人より主債務者を優先して行うよう求める権利
●検索の抗弁権(民法第453条)
…差押えなどの強制的な債権回収手続きを行う際に、保証人より主債務者の財産を優先するよう求める権利
→どちらも連帯保証人には認められていません。
要するに、債権者にとっては「いざとなれば、連帯保証人と主債務者のどちらか資力のあるほうを選んで取立てられる」という好都合な状況です。
これに対し、連帯保証人は「主債務者の返済が滞ればただちに残債について責任を負わなければならない」という不安定な立場を強いられているのです。
連帯保証人の地位も相続人に受け継がれる
民法では「相続人は(中略)被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と規定されています(第896条)。遺産のうちのごく一部だけでも相続人が自分のものにする意思を示した時点で、本条文のルールが適用されます。
つまり、亡くなった人が負う連帯保証人という立場も、知らず知らずのうちに相続人が受け継ぐのです。
債権者から督促され、驚いて「連帯保証人の立場を相続したことを知らなかった」と伝えても、督促を取り下げてくれることはありません。債権者からすると、法的に合理性のある行動だからです。
連帯保証人を相続したくない時は
それでは、連帯保証人の地位を相続しないようにするため、相続人は何をすれば良いのでしょうか。
まず確認したいのは、主債務者の返済状況が悪化したときに保証人が負うべき債務額、つまり「借金はあとどのくらい残っているのか」です。有益な遺産(不動産や預貯金など)を残りの借金額が下回っているようなら、その差額しだいで相続しても構わないでしょう。
しかし、残りの借金額が有益な遺産の価額と同じかそれ以上であるのなら、極力相続は避けるべきです。具体的に打てる手としては、次の2つの手段が考えられます。
相続放棄
家庭裁判所で「相続放棄の申述」を行えば、有益な財産ごと相続権を失う代わりに、債権者からの弁済要求に答えずに済みます。
注意したいのは、相続人全員揃って手続きする必要がある点です。共同相続人のうちの一部だけが放棄してしまった場合、連帯保証人としての地位が放棄しなかった相続人へと移ってしまいます。
また、相続人には未成年者や被後見人も含まれます。左記のように財産行為を自力で出来ない人については、親や後見人といった「法定代理人」もしくは「特別代理人※」が代わりに申述してあげる必要があります。
【参考】特別代理人とは
ある手続きについて、法定代理人と本人のあいだで利益相反(一方の利益がもう一方の不利益になってしまう状態)が起きるときの代理人です。
相続放棄の場合は「親や後見人も相続人に含まれる場合」に特別代理人が必要になります。
参考:認知症の家族は相続手続きに参加するには?―「成年後見制度」について
限定承認
あまり使われないものの、清算後に遺産の残余分を相続する「限定承認」という手段もあります。
つまり、連帯保証人が現時点で負うべき弁済額を有益な遺産を換価処分しながら返済し、最終的に余りがあればそれを受け継げるのです。
ところで、限定承認が好まれなくなった理由は、手続きに時間と費用がかかってしまう点にあります。
【限定承認のデメリット】
①清算に時間がかかる
…清算する際は、まず債権者に名乗り出るよう官報(政府発行の紙面)で呼びかけを行い、競売手続き等を経なければなりません。官報での呼びかけ(公告)には最低でも2ヵ月かかり、全体では相当時間がかかってしまいます。
②清算費用の一部を相続人が負担する
…限定承認しようとする相続人は、相続放棄でもかかる戸籍謄本や住民票の発行手数料のほかに、官報公告費用(目安として4万円~5万円)を負担しなければなりません。
③譲渡所得税がかかる
…清算後の残余分を受け取るときは、相続税ではなく譲渡所得税が課せられます。配偶者控除や小規模宅地等の特例も適用できません。したがって、税引後の差額がほとんどない可能性があります。
以上のことから、連帯保証人の地位を相続したくないときは、思い切って「相続する」もしくは「相続放棄する」の2択を考えると良いでしょう。
連帯保証人の地位を外せる可能性がある
連帯保証人の地位は、主債務者や債権者との交渉で外せる場合があります。そもそも主債務者が支払わなくなって相当の時間が経過しており、借金が消滅時効(5年もしくは10年)を迎えているときは、連帯保証人の責任も消滅します。
大切なのは「きちんと債務額を把握すること」に加え、はっきりと連帯保証人を相続することが分かるまで弁済しようとしないことです。いったん保証債務を認めてしまうと、消滅時効を主張したり、保証人を外す(別の誰かに変更する)ことが難しくなります。
おわりに
連帯保証人はいわば「いつ破裂するか分からない時限爆弾」のようなもので、相続していることを自覚しないままある日突然督促される恐れがあります。
被相続人(亡くなった人)が連帯保証人になっている場合、あるいはその可能性がある場合は、まず債務額などの状況把握に努めましょう。その上で相続放棄などの手段を検討することになります。
今後の記事でも、相続に関するよくある疑問・不安についてとりあげます。