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相続分を譲渡するメリット&デメリット

投稿日:2020-07-08 更新日:

資産状況や家庭事情しだいでは、本来は利益につながるはずの相続手続きがかえって重荷になるでしょう。遺産分割協議などの諸々の予定から解放されたい場合、”相続分の譲渡”という選択肢があります。相続放棄などの他の手続きのほうが好都合であることもあるので、もしも「遺産の取り分を他の家族に譲りたい」と考えることがあれば、下記の譲渡の性質をよく理解した上で熟考しましょう。

 

相続分の譲渡とは

相続分の譲渡とは

そもそも「相続分の譲渡」とは、法定相続人として持っている権利割合の全部(または一部)を、他の相続人や第三者へと移転させる手続きを指します。

 

譲渡の際は当事者双方の合意があればよく、有償無償は問いません。また、家庭裁判所での手続きも不要です。

相続分を譲り受けた人は、その権利割合を根拠に遺産分割協議に参加し、自身の遺産の取り分を主張できます。

 

【注意】遺贈された特定の財産は譲渡不可

譲渡できるのは相続法で定められた権利割合(=法定相続分)だけです。遺言書で受け継ぐ人が指定されている特定の資産(=特定遺贈)は譲渡できない点に注意しましょう。

特定遺贈を受けたくないときは、他の相続人に対して拒否の意思を示すだけで構いません(民法第986条)。このとき対価を要求することは認められず、拒否された財産は他の相続人で話し合って取り分を決めることになります。

 

【例】「叔父の面倒を見る代わりに居住用不動産を譲る」と遺言書に書かれていたが、条件が重いと感じているので拒否したい

→単純に「せっかくだが不動産をもらい受ける気はない」と共同相続人に知らせるだけで構いませんが、見返りに金銭を要求したり、自分の代わりに相続してほしい人を指定したりすることはできません。

 

相続分を譲渡するメリット・デメリット

「遺産を得ても大した利益にならないから」等の理由で焦って譲渡の合意を交わすのは禁物です。まずはメリットとデメリットを整理しておきましょう。

 

譲渡のメリット

相続分譲渡のメリット

相続人が権利割合を譲り渡す合意に踏み切る理由・メリットとしては、下記のようなものが挙げられます。

 

二次相続の手間が省ける

高齢夫婦の一方が亡くなるなど、相続が立て続けに起こる見込みがあるケースは、若い相続人の立場として悩ましいものです。遺産の名義変更手続きを何度も行わなければならず、自己の名義なら逃さなかった資産活用のチャンスを逸してしまうかもしれません。

このような場合、今後被相続人となる予定の人が相続分を譲渡してしまうことで、手続きを省略しながら早々に若い世代へと資産運用をバトンタッチできます。

 

遺産分割協議からすぐに離脱できる

平成30年の時点で、遺産分割調停の平均審理期間は11.5ヶ月に及ぶとのデータがあります(裁判所資料より)。相続人同士の意見が折り合わないままでは、いつまでたっても相続登記等の必要な手続きが終わりません。争う気のない相続人は何の利益も得られないまま1年近くの時間を空費し、何とか遺産分割の合意に至っても遺恨は解消できません。

「最終的な損益に比べて対立解消に時間がかかりすぎる」と感じたときこそ、相続分の譲渡という選択にメリットが生まれます。すぐに争いから離脱できるだけでなく、家族関係の破局をも回避できるのです。

 

譲渡のデメリット

相続分譲渡のデメリット

一方で、相続分を譲り渡す行為には下記のようなデメリットがあります。あらかじめ想定し、譲渡する目的をよく検討しなければなりません。

 

遺産に含まれる「債務」からは免れられない

そもそも”遺産”とは亡くなった人に属する権利義務の全体を指します。義務の部分には、金銭の返済や損害賠償などの「債務」が含まれることに注意しなければなりません。

結論を述べれば、相続分を譲渡したことは債権者からの督促を拒否する根拠にはなりません。民法解釈や過去の最高裁判例では「債務は法定相続分に沿って移転し、遺言書・遺産分割協議での決定・譲渡などの当事者の取り決めに関わらず法定相続人に履行を求められる」としているからです。

現実には相続分を譲り受けた人へと督促されることが多いものの、それは債権回収の実現性を判断してのことです。改めて整理すると、相続分をただ譲渡するだけでは、亡くなった人が作った借金等から免れることはできないのです。

 

かえって相続トラブルを拡大させてしまう可能性がある

注意したいのは、自身の譲渡によって相続人のあいだに存在する格差を広げてしまう可能性です。

「譲渡先を誰にするのか」「有償か無償か」「有償の場合はどのくらいの金額とするのか」の3点については、慎重に決めなくてはなりません。

 

【相続分譲渡によるトラブルの例】

  • 亡くなった夫に対する妻の相続分を子に譲ったが、妻の死後になってから譲られた子と他の子とのあいだで遺留分侵害をめぐるトラブルが起きた(最高裁平成30年10月19日判決)
  • 親切にしてくれる資産運用会社に相続分を譲り渡したところ、あとから実は詐欺に遭っていたと分かり、無事に解決したものの家族からの信頼を失ってしまった。

 

相続分を譲渡する際の手続き方法

相続分譲渡の手続き方法・課税の扱い

熟慮した末に相続分の譲渡を決断したときは、双方合意したことを示す「相続分譲渡証書」を作成し、他の相続人にも書面で通知します。

【相続分譲渡の流れ】

  1. 譲渡当事者で条件について協議する
  2. 合意した内容を書面化する(相続分譲渡証書の作成)
  3. 共同相続人全員に相続分譲渡通知書を送付する

 

譲渡後も税申告は必要

相続分を全部譲渡したとしても、被相続人の死亡後10ヶ月以内に相続税申告しなければなりません。有償譲渡であれば、相続税申告とは別に譲渡所得税の申告(確定申告)も必須です。

譲り受けた側でも、共同相続人なら相続税、第三者なら贈与税(※無償の場合)の申告が欠かせません。

 

譲渡があった場合の相続登記の方法

相続人のあいだでその権利割合の譲渡があった場合、不動産登記では①相続②贈与③遺産分割の3つに登記原因を分けて手続きしなくてはなりません。

譲渡しなかった場合と比べて手続きが複雑になるため、専門家の力を借りながら進めると良いでしょう。

 

第三者に相続分が譲渡されてしまったときは

譲渡当事者でない共同相続人の立場で考えると、断りなく第三者に相続分が渡ってしまうのは不都合です。

もしも遺産分割協議に参加してほしくない第三者へと譲渡が行われてしまったなら、共同相続人は「取戻権」(民法第905条)を行使できます。

ただし、取戻権の行使には譲渡後1ヶ月以内と期限が定められており、さらに譲渡された相続分相当の費用支払いを実施しなければなりません。相続が始まったらすぐ共同相続人全員と連絡を取り合い、不都合な第三者への譲渡が起こらないよう注意しましょう。

 

おわりに

「相続分譲渡」は面倒な手続きや争いから免れるための手段として有効ですが、債務からは免れられず、特定遺贈は譲渡の対象にならない点に要注意です。

無用なトラブル発生(もしくは拡大)を防ぐ上で、簡単に決断せず慎重に状況整理してから「誰に譲渡するのか」「有償無償のどちらで譲るのか」を見極めるべきです。

状況によっては財産放棄や相続放棄などの他の手続きのほうが好都合である可能性も含め、より良い方法を検討しましょう。

 

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