亡くなった人の財産は、遺族にとって大切な生活の原資です。賦課される相続税があまりにも重すぎると、最悪の場合は遺産承継の権利そのものを放棄しなければなりません。
こうした不都合に配慮して、相続について取り決める税法や通達で「非課税財産」が指定されています。本記事では、具体的にどんな資産が・どの程度まで課税されないのか解説します。
目次
非課税財産の種類
非課税財産のうち代表的なものは、遺産のうち評価額3,000万円に法定相続人1人あたり600万円を加えた「基礎控除」にあたる部分です。
法定相続人が1人であれば評価額3,600万円以下、2人であれば評価額4,200万円以下(3,000万円+600万円×2)の財産を受け継ぐ場合は、そもそも相続税を申告する必要がありません。
そして基礎控除以外にも、下記5種類の課税対象とならない資産が存在します。
「非課税財産」の種類
- 祭祀財産・庭内神し
- 死亡保険金・死亡退職金
- 寄付財産
- 公益事業用財産
- 「心身障害者共済制度」の給付金
上記の非課税財産のなかには、一定限度を超えて相続した場合は課税されるものや、相続人に事業継続要件が課されるものもあります。
以下では「祭祀財産」から順に、詳しい非課税の条件を解説します。
祭祀財産・庭内神し
祭祀財産とは、法事や日常のお祈り・お弔いに欠かせない「墓地・墓石」「仏壇・仏具」「神棚」などを指します。
相続の基本的なルールを定める民法では、祭祀財産を遺産とみなしません。税法でもこの考えを受け継いで、例えば「文化財級の歴史的価値がある」等の特別なものでない限り、祭祀財産は非課税とします。
上で紹介したようなもの以外にも、相続した土地の敷地内にあり、地元の人の信仰の対象となっている祠(ほこら)等も「庭内神し」として課税されません。
死亡保険金・死亡退職金
遺族に受け取る保険金や退職金の権利は、生前の故人の任意で結ばれた“契約”に基づいて発生します。生前なんら契約がなくとも法律に基づいて財産が移転する”相続”とは異なります。
そこで「死亡保険金」「死亡退職金」については、法定相続人1人あたり500万円を限度に非課税とされています。また、よほど高額でないかぎり遺産分割の対象にもなりません。
以上の点を生かして、生前の相続税対策として生命保険を活用するテクニックもあります。
寄付財産
相続関係者の意志で政府・地方自治体・公益事業法人に寄付した財産は、相続税の申告時に非課税財産として扱えます。
ただし「節税のためにペーパーカンパニーを設立して寄付する」等の不正が起こらないよう、寄付先の団体がその後2年間にわたって公益事業を続けること(事業継続要件)が要件として指定されている点に要注意です。
他にも、寄付した相続人やその親族が寄付先から”特別な利益”を得ている場合は、非課税枠として認められません。
公益事業用財産
下記のような公益事業を承継したり、相続した財産を使って開始した場合は、事業用財産を非課税財産として取り扱います。
ただし、事業継続要件・事業関係者に対する”特別の利益”があった場合の除外要件は、寄付財産と同じように設けられています。
【一例】“公益事業”とは
- 老人ホームや生活保護受給者向けの支援事業
- 刑事犯の社会復帰を支援する事業
- 幼稚園経営など教育に関連する事業
- 図書館や博物館などの学術関連の運営事業
「心身障害者共済制度」の給付金
全国の地方自治体で運用されている「心身障害者共済制度」とは、障害をもつ人を支援する親族を対象とする保険の一種です。支援する親族が被保険者・障害者本人が受給権者として毎月掛金を支払うことで、被保険者が亡くなったときに年金支給が開始されます。
本制度で支給される年金については、制度趣旨に照らし合わせて課税されません。
おわりに
「非課税財産」の種類を押さえておくことで、事業や亡くなった人の近親者に必要な資産を最大限手元に残す工夫ができます。生前準備だけでなく、いよいよ相続手続きを迎えたご家庭でも、ここで紹介した非課税財産の種類を節税に役立てられるでしょう。
ただし、寄付財産や公益事業用財産のように「事業継続要件」などが厳しく定められている資産がある点には要注意です。課税されないかどうかの判定は、専門家に確認しておくと良いでしょう。