相続人となった方から「遺言書が見つからず困っている」というお悩みをご相談いただくことがあります。
遺産の話題を繊細なものとして遠ざけてきたご家族も、決して少なくありません。故人を最期までサポートし続けた方すら「そもそも遺言書を作成していたのか分からない」と仰られることがあります。
こんな時、相続手続きを進めるにはどうすれば良いのでしょうか。
目次
まずは遺言書探しを隈なく行う
第一にやっておきたいのは、隅々まで遺言書探しを行うことです。
故人と親しかった人や取引相手がご存知の場合もありますし、信頼できる人に託していた可能性もあります。自宅と心当たりのある場所を探し、必要に応じて聞き込み調査を行ってみましょう。
見つかってもその場で開封しない
捜索のかいあって遺言書が見つかったとしても、その場で開封するのは厳禁です。
遺言書の開封は家庭裁判所にしか許されていません(これを検認と呼びます)。もし家裁に報告せず勝手に開けてしまうと、5万円以下の過料が発生してしまいます。
それ以上のデメリットとして、ご家族から改ざんを疑われてしまう点が挙げられるでしょう。封を切らずそのままご家族と裁判所に報告するのが正しい対処法です。
万が一あとから遺言書が見つかると…?
早々に捜索を諦め、ご家族間の話し合い(遺産分割協議)で相続分を決めても構わないとされています。
しかし、万が一協議後に遺言書が見つかるとどうなるのでしょうか。実のところ、多くのケースで協議のやり直しとなってしまいます。
相続手続きのやり直しになるケース
より具体的に、遺産分割協議をやり直さなくてはならないケースを挙げてみましょう。
遺産分割協議の内容に納得できない家族がいるとき
遺産分割協議では納得していたものの、遺言書発見をきっかけに「本来自分の取り分はこうだったのに」と思い始めるご家族がいるケースです。
結束の強いご家庭や資産額の少ない故人であっても、こういったことは珍しくありません。
見つかった遺言書に特定の内容が書かれているとき
まれに「昔の恋人とのあいだに出来た子どもを認知する」「特定の家族を相続人から外す(外したことを取り消す)※」という内容が書かれていることがあります。
こういったケースでは、ご家族の意向に関わらず、遺産分割協議は無効になってしまいます。相続人の顔ぶれに変化が出て、法律で決められた相続分にも変更が生じるからです。
※これを法律用語で「相続人の廃除」と言います。
自宅or心当たりのある場所に遺言書がないときは
遺言書は大切なものなので、手の届く場所には保管していないかもしれません。自宅捜索や聞き込みで見つからないときは、次の方法で貸金庫・公証役場もあたってみましょう。
遺言書探しの方法1:貸金庫を探す
よくあるのが、貸金庫内に遺言書を保管していた例です。
貸金庫の契約情報がはっきりと分かるなら、相続人全員の立ち合いのもと、金庫内を確認することが出来ます。近日中に全員揃うのが難しいときは、貸金庫のある支店を管轄する公証役場から公証人を招き、当日立ち会ってもらいます。
貸金庫の契約情報が分からないときは
貸金庫がどこにあるのか・そもそも契約しているのかが全く分からない時は、まず金庫捜索から始めなければなりません。亡くなられた方の利用していた銀行に対し、相続人から照会をかけてみましょう。
遺言書探しの方法2:公証役場で検索する
公証役場で作成された遺言(公正証書遺言)なら、全国の公証役場で簡単に検索することが出来ます。
ただし、誰でも何も用意せずに検索できるというわけではありません。亡くなられた事実・検索者との関係がわかる書類(戸籍謄本や本人確認書類)を提出する必要があります。
公証役場の管轄により検索方法が異なる場合もあるので、検索前に相談してみてください。
参考:公証役場一覧(リンク)
どうしても見つからないときは
相続手続きには一定の期限があり、いつまでも遺言書を捜索するわけにもいきません。
原則として亡くなられてから3ヵ月以内に、ご家族それぞれが自身の相続分を受け取るか(もしくは放棄するか)を決めなければなりません。亡くなられてから10ヵ月が経てば、相続税も発生します。
3ヵ月・10ヵ月の各期間を「相続手続きに目途をつけるべき時期」ととらえるなら、遺言書捜索にも時に諦めが必要と言えます。
後から見つかっても全員が協議に納得していればOK
後から遺言書が発見されても、ご家族全員が遺産分割協議に納得していれば、相続手続きをやり直す必要はありません。過去になにか複雑な出来事がなければ、遺言書に特別な内容が書かれている可能性を恐れる必要もないでしょう。
おわりに
「遺言書が見つからない」とすぐに諦めるのは禁物です。
しっかり捜索せずに相続手続きを進めてしまうと、後で遺産分割協議のやり直しという憂き目に遭うかもしれません。自宅捜索・聞き込み・貸金庫や公証役場への照会を通じて、徹底的に探してみましょう。
私が最も大切だと考えるのは、相続手続きの各ステップでしっかりとご家族間で認識を共有しておくことです。責任を持って遺言書捜索に手を尽くしたことが伝われば、協力関係をたもちながら円満な相続手続きを実現できます。