相続

行方不明者がいるとどうなる?「失踪宣告」と活用できる制度一覧

投稿日:2020-01-22 更新日:

行方不明者が家族構成員にいることで、精神的にも経済的にも状況が宙に浮いたままとなります。次第に経済的側面が重くのしかかるようになり、いつまで経っても再出発することが出来ません。

こうした困った事態を解決するため、裁判所による「失踪宣告」を含めてさまざまな手段を検討できます。
今回の記事では、行方不明者を抱える家族に起きる事態を具体的にお話ししたあとで、どうしても連絡がとれないときの法的な対処法を紹介します。

 

行方不明の人がいるときに困ること

行方不明者とその家族の問題

 

行方不明の届出がなされる人は、毎年実に6万人〜8万人にも及びます※。届出が提出されていない人(行先や行方不明になった理由がはっきりしている人)を含めれば、その数は予測できません。
こうした居所のつかめない人を巡っては、身近な人の間で以下のような問題が起きています。

※参考:警察庁HP(リンク

 

財産管理

目下の問題は、行方不明になった人の財産管理をどうするかという点です。
不動産のメンテナンスや口座管理に必要であっても、本人から委任されていない人が財産を減らすような行為をすることは、法律上認められていません。
そのため「生活に必要なお金が下ろせない」「土地建物が荒れ放題になって近隣から損害賠償請求される」といった問題が生じがちです。

 

相続手続き

遅かれ早かれ生じるのが、行方不明者の家族が亡くなったときの問題です。
相続権も財産の一部ですから、委任されていない家族が勝手に取り分を決めて手続きすることは出来ません。このままではいつまで経っても相続が終わらず、相続税だけが課せられる困った事態になります。

 

離婚

行方不明者の配偶者が「いずれ心の整理をつけて次に進みたい」と思うのは自然なことです。
しかし、本人不在のままで離婚するには困難です。一定期間を経てから離婚裁判を起こすことで「法定離婚事由」が成立しますが、あまり長くは待てない事情もあるでしょう。
離婚成立(もしくは再婚可能となる)時期について明確な区切りがないと、精神的にも経済的にも不安定です。

 

税金・保険

さらに深刻な問題として、行方不明になっている人にも市民税や保険料がかかる点が挙げられます。行方不明者が世帯主だった場合、所得税の控除制度が有効に活用できず、やはり困った事態になるでしょう。

 

失踪宣告とは?

家庭裁判所による失踪宣告

 

行方不明者の身近な人の悩み事に決着をつけるため、民法に「失踪の定義」が設けられています。音信不通の状態が続き、法律で定められた要件を満たした段階で、家庭裁判所から「失踪宣告」を受けることが出来るのです。

 

失踪宣告の種類

法律上「失踪」とされる状況には、いなくなった原因がはっきりとしない場合(普通失踪)災害や事故が原因だとはっきり分かっている場合(特別失踪)の2種類があります。
失踪宣告を受けるには、状況に合わせて一定期間が経過したあとに管轄裁判所へ申立を行います。

【失踪宣告の種類】

  • 普通失踪:生死不明の状態が7年間続いている
  • 特別失踪:死亡する可能性が高い危難※があり、危難が去ってから1年以上経っている

※「災害や事故があった」「戦地にいた」「沈没した船に乗っていた」等の状況です。

 

失踪宣告を受けるとどうなるのか

失踪宣告を受けた人は、法的に「死亡したもの」として見なされます。
これにより、残された家族の困りごとである財産関係・結婚生活は、以下のように解決します。

 

相続手続きが始まる

失踪宣告を受けた人の財産は「相続財産」として扱われ、配偶者や子ども等の相続人へと受け継がれます。失踪者の相続権も、当然ながら失踪宣告と同時に家族へと移ります。

「他人の財産を勝手に減らすことが出来ない」という条件下で管理が行えなかったものが、以降は家族それぞれが自分のものとして自由に管理処分することが出来るのです。

 

再婚できるようになる

行方不明者が死亡したと見なされることで、残された配偶者は自由に再婚できるようになります。
長い離婚訴訟を経なくても、行方不明者の財産の問題に決着をつけてから、次の人生に歩み出せるようになるのです。

 

行方不明者を巡る他の制度

行方不明者の財産管理・死亡認定制度

 

失踪宣告は身近な人の再出発を踏まえて設けられている制度ですが、次の2つのデメリットがあることは否めません。

【失踪宣告のデメリット】

  • そもそも一定期間が経ってからでないと宣告を受けられない
  • 官報※に行方不明者の名前が載る

※官報とは
…政府が定期発行する機関誌のひとつです。失踪宣告の申立を行うと、不在者へ名乗り出るよう呼びかける目的で3ヵ月間(特別失踪の場合は1ヵ月間)掲載されます。

 

ただし、行方不明者を巡る困り事を解決する手段はひとつではありません。
家族と万が一連絡が取れなくなった場合には、他にも以下のような制度が検討出来ます。

 

不在者財産管理人制度

不在者財産管理人とは、さまざまな理由で音信不通の状態が解消される見込みのない人(=不在者)を対象に、その財産管理人を家庭裁判所に選任してもらう制度です。
失踪宣告のように行方不明期間の要件がなく、警察発行の届出証明があれば利用できるのがメリットです。

「相続人のうち1人と全く連絡がとれない」「蒸発した家族の土地建物をメンテナンスしたい」といった要望に対応し、当面の財産管理の困りごとを解消するために利用されています。

 

戸籍法に基づく死亡認定

行方不明になった原因がはっきりと分かっている人については、特別失踪の要件である1年経過を待たずに「死亡認定」を行う制度があります。
認定方法として、条文に基づき2種類が用意されています。

  • 戸籍法第86条3項に基づく死亡認定

…警察作成の書面をもとに死亡認定を行う方法です。

  • 戸籍法第89条に基づく死亡認定

…官公庁が発行する書面を元に死亡認定を行う方法です。

これらの死亡認定は、主に大規模災害の被災者に対して行われます。
「行方不明者の家の修復工事を行いたい」「行方不明者名義の保険を利用したい」等、世帯ごとの復興の足掛かりとして活用されることの多い制度です。

 

おわりに

身近な人の行方不明期間が長引くと、精神的苦痛は薄れゆく一方で「財産管理ができない」「次の人生に歩み出せない」などの現実的な困難が増すでしょう。
こうした状況下では、行方不明期間が一定に達することで利用できる失踪宣告をはじめとし、さまざまな制度が活用できます。

家族の問題を解決するための法律知識は、今後も継続して更新します。
将来起こり得るライフイベントへの備えとして参考にしてみてください。

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