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終活で考えたい「デジタル遺産」「デジタル遺品」の基本①

投稿日:2020-09-12 更新日:

スマートフォンやパソコンの普及率の上昇に伴い、高齢者のあいだでもさまざまな資産を電子管理する習慣が広まっています。「お気に入りの写真をSNSにアップロードする」「生活費はQRコード決済で・株式取引はネット口座で」といった日常は、年齢に関わらず定着しているのではないでしょうか。

こうして形成される電子データ(=デジタル資産)は相続財産の一部として扱われ、所有者の死後は適切な処理を必要とします。

下記では、今後ますます必要になる「デジタル遺産」や「デジタル遺品」の相続対策の基本編として、以下3点について解説します。

 

  • デジタル遺産・デジタル遺品とは
  • デジタル資産を放置すると起こる問題
  • デジタル資産を相続する方法

 

デジタル遺産・デジタル遺品とは

そもそも「デジタル資産」とは、スマホやパソコンなどの電子端末、あるいはネットワーク上で保有管理されている電子データ全般を指します。

保有管理を行っている人が亡くなった後のデジタル資産については、まだ明確な定義がありません。しかし近年では、金銭的価値のあるものを「デジタル遺産」金銭的価値はないもののプライバシー性の高いものを「デジタル遺品」と呼ぶのが一般化しつつあります。

 

「デジタル遺産」の種類

端末内にあるもの

→仮想通貨(デスクトップウォレットやハードウェアウォレットにあるもの)など

 

ネットワーク上にあるもの

→ネット証券内にある金融資産、ネット銀行の預金残高、電子マネーのチャージ残高、クレジットカードのポイント、仮想通貨(オンラインウォレット内にあるものや取引所の預入れ分など)

「デジタル遺品」の種類

端末内にあるもの

→メールソフト(またはアプリ)の送受信データ、写真、音楽データなど

 

ネットワーク上にあるもの

→プロバイダやGoogleが管理するメール送受信データ、SNSアカウント、LINEのトーク履歴、運営中のウェブサイトやブログ、仕事で使っていた資料、iCloudやDropboxなどのクラウドストレージ内にある各種データ

法律上、遺産の定義は「被相続人の財産に属した一切の権利義務」だとされており、手に取って確認できるモノかどうかは問題にしていません。つまり「権利証も現物もないが現に実在する金銭的価値」「何らかの事物について自由に管理処分してもいい権利」も遺産になり得ます。

上記の解釈に基づけば、亡くなった人のスマホやパソコンに記録された電子データも、遺産分割や生前の意思に沿った処分が必要と考えられるのです。

 

デジタル資産を放置すると起こるトラブル

デジタル資産の相続では、誰も必要性を認識しないまま相続開始も放置されるケースが多発しています。下記のようなトラブルが予想されることから、電子データを管理者不在で眠ったままにしておくのは考えものです。

 

相続税の申告漏れ

デジタル遺産には申告漏れを指摘されるリスクがある

第一に考えられるのは「デジタル遺産の税申告が漏れている」と税務署から指摘されるトラブルです。

税務調査で指摘された場合には、デジタル遺産に対する課税額に過少申告加算税(10%またたは15%)あるいは無申告加算税(15%または20%)が上乗せされ、各種控除の適用も認められません。

さらに、問題のデジタル遺産を改めて調査し承継手続きしなければならない手間もあります。

 

【トラブル例】

父が亡くなってから2年目の夏、突然「税務調査」の予告が。
ここで初めて「ネット証券で株取引をしていて、海外取引所にも多額の仮想通貨がある」と知った…
なんとか修正申告できたけど、加算税は免れられなかった。

 

相場変動による損失

管理者不在のデジタル遺産が損失を生むこともある

円預金以外のデジタル資産に関しては、常に保有者が相場情報をチェックして取引判断を行うのが本来のあり様です。取引判断を行うべき人が不在のままでは、相場変動で損失を被る可能性が当然生じます。

特に、自己資金以上の額を扱うことになる信用取引では、保有者の身に何があっても継続的に管理してもらえる環境を整えなければなりません。

 

【トラブル例】

趣味で外貨取引を行っていた母が、未決済の建玉を残して急逝。
体調が悪化してから相場が急変動して、多額の追加証拠金が…
相続人に支払う義務があると知って慌てている。

 

不正アクセスの被害

管理者不在のデジタル遺産は不正アクセスの標的になる

デジタル資産を管理するアカウントは、放置される期間が長引くほど不正アクセスのリスクが高まります。不審なアクセスに対して一切対処をとらない(とれない)状態が続けば、ブルートフォースアタック(総当たり攻撃)といった時間のかかる原始的なハッキング手法すら容易になってしまうのです。

 

【トラブル例】

父の死から1年後、突然警察から連絡が。父が生前利用していたSNSアカウントを使って、ここ数ヶ月以内に犯罪行為が行われていたとのこと。
まさか、ハッキングされた?
もっと早く気づいて削除しておけば…

 

その他のトラブル

その他のトラブルとして、デジタル資産を巡る相続人同士の対立が考えられます。最もあり得るのは、セキュリティ情報を簡単に知ることのできる同居家族が、デジタル資産を勝手に処分してしまうケースでしょう。

有形物の遺産や遺品と同じく、遺された電子データも、処分や移管が認められるのは共同相続人の合意後(もしくは遺言書の内容を実現するとき)です。亡くなった人が生前第三者と契約を交わしているなら、その契約に沿った処分を行わなければなりません。

 

以上の点を考えると、生前のあいだに「デジタル遺産」が他の相続財産と同様に扱われることを家族と共有して、何らかの処分方法を取り決めておかなければなりません。

 

デジタル資産を相続するには

相続人がデジタル資産を承継(もしくは処分)する方法は、その資産の管理場所によって異なります。

いずれにしても「端末のセキュリティ情報」もしくは「データ管理を行う事業者名」がなければ、具体的な手続きに入れません。

 

端末内データの相続方法

故人のスマホやパソコン、あるいは外部記憶装置(USBメモリなど)の中にあるデータを管理処分しようとする際は、基本的に「生前本人が使っていたセキュリティ情報」(スマホのパスコードロックやパソコン起動時のパスワードなど)が必須です。

 

セキュリティ情報が分からない場合は?

では、亡くなった人が端末セキュリティ情報を一切残さなかった場合はどうなるのでしょうか。

相続人の対処法として第一に考えられるのは、端末を自分のパソコンにつないで「初期化」、つまりデータを全消去して購入時の状態に戻す方法です。この方法の問題点は「勤務先から預かっている資料」や「思い出としてとっておきたい写真」などの重要なデータも消えてしまう点にあります。

 

第二に考えられるのは、端末メーカーやデータ復旧業者に問い合わせ、何とかセキュリティを解除し、故人が最後に使用していた状態で内部データを確認する方法です。

しかし、この対処法には問題があります。

一般に、Appleに代表される大手端末メーカーは、どんなイレギュラーケースであってもセキュリティ解除に対応してくれません。所有者本人でなくとも内部データを自由に扱えるとあっては、メーカーの信用にかかわってしまうからです。

 

参考:iPhoneロック解除問題特集(ウォールストリートジャーナル)

※Appleは犯罪組織によるテロや政治疑惑の捜査のため必要であっても「メーカーはロック解除に応じない」という姿勢をとっています。

 

かといって、データ復旧業者に依頼すると、費用(10万円~15万円が相場)の問題が生じます。そもそも、業者ですら端末セキュリティ解除の問題に阻まれる可能性は否定できません。

以上のように、端末セキュリティを解除するための手がかりを一切残さないと、端末内の電子資産にどうにもアクセスできなくなる「お手上げ状態」になってしまうのです。

 

ネットワーク上にあるデータの相続方法

ネットワーク上で特定事業者が管理している電子資産に関しては、事業者ごとに相続手続きを申し出るだけでOKです。

SNSアカウントなどの「デジタル遺品」に関するものであれば、解約・停止処分・追悼アカウント※への移行等が事業者側で行われます。証券会社・銀行・投資会社などが管理する「デジタル遺産」でも、遺産分割の内容に沿った資産移管が金融機関側で実施されます。

 

※追悼アカウントとは…

FacebookInstagramでは、死亡したことを知らせるバッジをアカウントに付与してフォロー相手に知らせる機能(=追悼アカウント化)があります。

 

デジタル資産の管理事業者が分からない場合は?

では「故人がどんなオンラインサービスを利用していたか」(=デジタル資産の管理事業者はどこなのか)が分からない時は、どうすればいいのでしょうか。

結論を述べると、①本人所有のスマホやパソコンのアクセス履歴を確認するか、②事業者に総当たり式で登録情報の照会を依頼するかの二択です。

①に関しては、端末内データの相続方法と同じく「生前本人が使っていたセキュリティ情報」が言うまでもなく必須です。

②についても、時間と労力がかかることは自明です。ネット証券なら「源泉徴収票」を入手して調べる方法も考えられますが、亡くなった人の口座が「源泉ありの特定口座※」だとは限りません。

 

※源泉徴収ありの特定口座とは

証券会社側で売却損益から税額を計算し、利益から自動的に差し引いてくれる(=源泉徴収)口座です。確定申告で手間がかからないのがメリットですが、取引額が高額になることの多い高齢者の口座では、節税テクニックを最大限活用するため「源泉なしの口座」が選ばれるケースが多いと考えられます。

 

おわりに

被相続人(=亡くなった人)がスマホやパソコンで管理していたデータは、遺産分割の上で税申告やアカウント停止などの処理が必要です。適切な処理が行われるようにするには、少なくとも以下の情報が相続人に伝わるようにしなければなりません。

 

デジタル資産について相続人に知らせておきたいこと…

  • どんなデータがあるのか
  • どこで保管しているのか(端末内かネットワーク事業者か)
  • どう保管しているのか(ID&パスワードやロック解除コードを伝える)
  • 相続方法をどうするか(やってほしい遺産分割や処分方法について伝える)

次回の記事では、デジタル資産についてやっておきたい生前準備について解説します。

 

 

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