相続人の間でもめ事に発展したときは「遺産分割調停」で解決を図れます。
実際に相続手続きがトラブル化する前に、調停が適したケースや全体の流れを知っておくと安心できるでしょう。今回は、相続手続きのイメージの助けとなるように、遺産分割調停基本的な知識を紹介します。
目次
遺産分割調停とは
遺産分割調停とは、相続人同士で仲裁役(=調停委員)を交えながら話し合いを進める手続きです。
注意したいのは、裁判所が問題をジャッジして結論を出してくれるわけではない点です。もめ事について結論を出すのは当事者であり、調停委員は結論を出すための手助けをしてくれるに過ぎません。調停を進めるうちに意見がどうしても折り合わないと判断されたときのみ、裁判官が審判してくれます。
遺産分割調停で話し合いにより無事に結論が出せているケース(調停成立)の割合は、毎年50%~60%程度にとどまります。1年以上かかってなお結論が出せないケースも少なくありません。
相続財産を巡って揉め事に発展しそうなときは「本当に調停で答えが出るのか?」「実はごく簡単なやりとりで意見相違が解決するのではないか?」とよく考えてみた方がよいでしょう。
参考:平成27年の司法統計(リンク)
調停したほうがよいケースとは?
とはいえ、やはり「調停でないと解決しない」というケースがあることは否めません。
典型的なのは次のようなトラブルです。
【遺産分割調停をしたほうが良いケース】
- 家族による遺産の使い込みが判明した
- 法定相続分よりも多い取り分を主張する家族がいる
- 不動産の分割方法を巡ってもめている
いずれも当事者だけだと感情的な話し合いに終始しがちですが、調停委員の存在により冷静さを保てるようになります。明らかに無理のある主張や、二転三転する主張についても、きちんと静止がかかります。
結果として、毎日話し合ってもなかなか解決しない問題でも、当事者の意思を十分に反映するかたちで結論を得ることが出来るのです。
調停が適さないケース
反対に、以下のようなケースは調停は適しません。
どちらかといえば訴訟(裁判官によるジャッジが得られる手続き)で解決すべきことで、調停に持ち込んでも話し合いが長期化するだけだと予測されるためです。
【遺産分割調停をしないほうがいいケース】
- 相続権の有無でもめている場合
- 遺産の範囲でもめている場合
- 遺言書or遺産分割協議書の有効性でもめている場合
遺産分割調停の流れ
ここからは遺産分割調停の全体の流れを紹介します。
最初に整理しておきたいのは、調停の申立資格がある人です。以下のように、遺産の承継に直接関わっている人なら誰でも調停を申し立てることは出来ます。
【遺産分割調停の申立資格がある人】
●共同相続人
…亡くなった人から見て「法定相続人」にあたる人が複数いる場合、そのうちの誰からでも「共同相続人」として調停申立できます。
●包括受遺者
…遺言書で「遺産を全て譲り渡す」と指名された人にあたり、同じく調停申立可能です。
●相続分譲受人
…法定相続人から相続分の譲渡を受けた人です。もともとは第三者という立場にあたる人でも、亡くなった人の債務弁済等を理由に「相続分を譲る」と約束してもらった人は、調停の当事者になることが出来ます。
Step1.調停の申立て
調停すると決めた申立資格のある人は、申立書と添付書類を裁判所に提出しなければなりません。相続関係を示す戸籍謄本等を含め、トラブルの全容がわかる以下のような資料を収集します。
【一例】遺産分割調停の申立てで提出する書類
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 被相続人と相続人全員分の住民票・戸籍附票
- 事情説明書
- 遺言書がある場合には遺言書の写し
- 遺産に関する証明書
(預金口座の残高証明書・不動産登記事項証明書・固定資産評価証明書等)
特に戸籍謄本・遺産に関する証明書の収集については、骨の折れる作業となるでしょう。取得し忘れによる二度手間を考えると、なるべく専門家にフォローを受けたい部分です。
Step2.調停期日の通知
裁判所が書類を受領すると、調停期日の通知が2週間ほどで届きます。アンケート形式の「照会回答書」も届くため、記入して裁判所に返送します。
申立人以外の他の相続人の手元にも通知は届けられるので、話しづらい家族がいる場合は「調停を行う」と無理に知らせる必要はありません。
Point:当日話すべき内容が上手くまとまらないときは
調停で「上手く話せるか分からない」「話したい内容が多すぎる」と思ったときは、事前に話したいことを文書にまとめて裁判所に提出しておけます。
目安として調停期日の2週間前に到着するよう送付しておけば、期日当日の開始時間までに調停委員に目を通してもらえます。
Step3.調停期日
第一回調停期日が到来し、家庭裁判所での話し合いがいよいよ始まります。
所要時間は1時間半~2時間程度で、一般的には次の流れで進行します。
【調停期日当日の進行】
- 申立人・相手方ともに、それぞれの待合室で待機
- 調停室に両者とも呼び出され、説明を受ける
- 待合室に戻り、交互に調停室に呼び出されて主張を述べる
事情を述べて希望を伝えれば、相手方とまったく顔を合わせずに調停を進めることも出来ます。
調停は1回だけではなく、第二回・第三回…と1カ月~2カ月おきに繰り返されます。
Step3.調停の終局
調停の当事者が主張を述べ終わり、これ以上の話し合いをしても進展が見られないと判断された段階で「終局」を迎えます。
調停成立もしくは他の終局処分(認容・却下・遺産分割の禁止など)が下っていったん解決を見ますが、家庭裁判所の判断で「調停に代わる審判」が下されることがあります。
Point.「調停に代わる審判」とは?
審判とは、裁判官によるジャッジのことを指します。いわば訴訟の最下位に位置付けられるものであり、審判の結果に不満があるときは「即時抗告」によって高等裁判所での訴訟に移行します。
実状として、審判が行われるケースは稀です。先に紹介した平成27年の司法統計では、終局を迎えた遺産分割調停のうち「調停に代わる審判」を迎えたのは、わずか10%程度です。
遺産分割調停の心得
調停で心がけたいのは「落ち着いてしっかりと自分の意見を述べること」です。
調停委員から厳しい意見が出てくることもありますが、それは法律の専門家としてではなく”一般良識に基づく第三者の考え方”を述べているだけに過ぎません。当事者どちらかの味方についたり、裁判官のようにジャッジしたりすることは、調停委員には認められていないからです。
めげずに理路整然と考えを伝えるよう心掛ければ、場にいる人全員の理解と譲歩を引き出せます。万一にも調停しなければならない事態を迎えたときは、できるだけ肩の力を抜いて臨みましょう。
おわりに
当事者の意見や考え方をしっかりと結論に反映できるのは、訴訟にはない遺産分割調停ならではのメリットです。
手続きの流れ・解決までの道のりのイメージをもっておけば、制度を最大限有効に活用できるでしょう。
相続についてよくある疑問や不安については、今後も随時記事で紹介します。